「ラ・ヴァチュール」は、1971年におばあちゃんがはじめたお店。おばあちゃんは、鹿児島・奄美大島生出身。そこから台湾へ渡って、学校の先生をしていたんやけど、引き上げの時に親戚を頼って京都へ来た。その後美術学校に通って、現代美術を扱う画廊をはじめたんやんか。画廊を改築するときに、今「ラ・ヴァチュール」のある丸太町に移ってきて、ギャラリーとフランス料理のレストランとしてはじめた。おばあちゃんは、カフェやレストランをしたかったというよりかは、芸術的感覚からこのお店をはじめたんやと思う。
タルトタタンは、もともとレストランのデザートとして出しててん。最初はシェフにつくってもらってたんやけど、おばあちゃんがフランスで食べた理想のタタンに近づけるために、最終的に自分でつくりはじめてん。だからおばあちゃんにとって、タタンはケーキをつくっているというよりかは、作品みたいなもので。私も同じような感覚がある。
おばあちゃんは美術学校に行ってたし、父は建築、母はジュエリー作家。私も美大を出たから、アート感覚は家族から受け継いだものなんかもしれへんな。
タタンを通して、いろんな人に出会ったり話をしたりする。タタンの先にはりんごがあって、りんごの先には産地がある。そこで産地の人とまた繋がって。一つの物を追求することで、物事が広がっていくことを、タタンを通しておばあちゃんから教えてもらったんかなと思ってる。だからやってることはタタンというケーキをつくることやねんけど、哲学的なものが詰まってる。
私が継いだのは、「ラ・ヴァチュール」というお店もそうやけど、おばあちゃんのやりたかったことのその先かなと思っていて。りんごとバターと砂糖だけでできるタタンのレシピは、あってないようなもの。その中で、おばあちゃんがフランスで食べた理想のタタンに近づけるために、りんごの仕入れ先を開拓したり、いろんな品種を試したりしてるねん。おばあちゃんと私が求める味は一緒で、そこに辿り着くためのルートはいっぱいあるわけで。かつておばあちゃんがやってたように、私も日々考えて、変えて、タタンをつくる。
おばあちゃんは常に変わっていくことが好きな人やったから、私もタタンの味を変えないとか伝統を守るとかってよりは、理想のタタンを目指してレシピを追求したい。